活動

労災職業病と補償の枠組み

仕事が原因のケガや病気を労災・職業病といいます。労働基準法(労基法)第8章では、「事業主の無過失責任で労災・職業病の補償責任がある」ことを明記しています。その補償を担保するのが労災保険制度で、1人でも雇用すれば強制加入しなければなりません。かりに事業主が労災保険に未加入でも被災労働者の労災補償は、支給されます。就職して1日目でも外国人(不正就労もふくむ)でも補償の対象です。

なお建設業では、労基法第87条で労働災害の元請責任が明記されていて、建設現場ごとに労災保険に加入していますから、下請労働者にも適用されます。1人親方には労災保険の特別加入制度があります。派遣労働者は、派遣元の労災保険が適用されます。海外勤務の場合には労災保険に特別加入しなければ提供されません。

労災保険で補償されるのは、①療養補償(治療費100%)、②休業補償(休業3日目まではでない。4日目から給料の80%)、③障害補償(治癒した際に障害がのこった場合に、その度合いに応じて補償される)④遺族補償(死亡した場合)などです。

制度一覧に戻る

労災申請の手続き

労災申請は、厚生労働省の決めた手続きですすめることになります。療養補償は「5号様式」で病院から労働基準監督署(労基署)に申請するのが通常です。ただし、労災保険を取り扱っていない病院では、本人が「7号様式」で労基署に申請します。休業補償は「8号様式」で被災者本人が労基署に申請します。その際、事業主証明が必要ですが、事業主の拒否や倒産などで取れないときは未記入でも受け付けてくれます。(各種の申請書はもよりの労基署にありますし、文房具店などでも購入できます)

労災申請に際しての最大の問題は、「仕事によるケガや病気が業務に起因にしている。業務との相当因果関係がある」ことを申請者本人が証明しなければならないことです。さらに、医師の診断書に記載された病名が厚生労働省の決めた対象疾病に該当するかが問われます。労基署は申請された内容を「認定基準」にもとづき判断し、「業務上外」を決定します。

なお、労基署の決定に不服の場合、その決定から60日以内に不服審査請求、さらに再審査請求を行うことができます。次に行政訴訟という段階があります。

制度一覧に戻る

業務災害の範囲

1.業務遂行性
業務上の災害と判断する基準は、業務遂行性と業務起因性です。業務遂行性とは、災害の原因になる行為が「業務を遂行しているかどうか」という判断基準です。工場で作業中とか出張は、業務遂行性があると判断されます。なお、業務遂行性は、「事業主の支配下にある状態かどうか」で判断されます。寄宿舎や寮での事故も業務災害と認められる場合があります。
2.業務起因性
厚生労働省は、業務起因性の「起因」について「業務との相当因果関係」がある場合としています。要するに災害や疾病の発生原因が、業務と相当程度(少々では駄目ということ)の因果関係がある場合に業務災害としています。
3.認定基準
厚生労働省は上記の「業務遂行性」と「業務起因性」を前提に業務災害の「認定基準」をつくっています。いわゆる過労死・過労自殺、腰痛や頸肩腕障害、じん肺、アスベスト肺、難聴など、疾病別の認定基準の要点は別項で紹介します。各種の「認定基準」の最大の問題点は、年齢や性別、個人差などを無視して平均的な労働者を基準に設定していることです。たとえば腰痛の認定基準は、「20㎏以上の重量物をおおむね3か月間以上繰り返し中腰作業を続けて発症して腰痛」とされています。それ以下で発症した場合は、「個人の脆弱性」とされ認定されません。

制度一覧に戻る

通勤災害について

労災保険制度で通勤途上の災害を、補償の対象としています。通勤災害とは、「労働者が通勤の際に負傷、疾病、障害又は死亡した場合、業務災害と同様に必要な保険給付を行う」こととされています。この場合の通勤とは、「労働者が就業のために住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復すること」です。なお、往復経路の逸脱・中断を除き通勤です。

通勤災害の申請で問題になるのは、災害のおきた場所が通勤途上にあたるかどうかです。現任者の特定や事故証明(駅や警察、救急車など)などが重要になります。なお、自動車事故では、自賠責保険と労災保険のどちらかを選択することになりますが、示談をすると労災保険の適用も放棄することになりますから気をつけてください。自賠責保険と労災保険の関係は別項で解説しています。

制度一覧に戻る

腰痛の認定基準

腰痛には、災害性腰痛と非災害性腰痛(慢性的疲労蓄積)があります。特に、非災害性腰痛の労災認定は、業務起因性の判断が難しい疾病といわれハードルが高いものがあります。以下、災害性腰痛と非災害性腰痛の認定基準(基発第750号)概要です。

1.災害性腰痛
災害性腰痛の認定基準は、①通常の動作とは異なる動作で腰部に急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じたことが明らかに認められ、②腰部に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症(過去に腰痛になったことがある)もしくは基礎疾患を著しく増悪させたことが医学的に認められるものとしています。①は、「労働に際して何らかの原因で腰部に通常の動作と異なる内的な力が作用して"ぎっくり腰"などの腰痛が発症することで漸時軽快するが、発症後に椎間板ヘルニアが顕在化することもあり、椎間板ヘルニアの伴う腰痛も災害性腰痛として補償の対象とする場合があることを留意する」としています。②は、「腰痛の既往症や基礎疾患(たとえば椎間板ヘルニア、変形性背椎症、腰痛分離症、すべり症など)があって、消退または軽快している状態のとき業務が原因で再び発症または増悪して、治療が必要と認められたもので業務上との疾患と認められるものは補償の対象とする」としています。
2.非災害性腰痛の認定基準
非災害性腰痛の認定基準は、「重量物を取り扱う業務等、腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に腰痛が発症した場合、当該労働者の作業態様、従事期間及び身体的条件から見て、当該腰痛が業務に起因して発症したものと認められ、かつ医学上の治療が必要なものについては、業務上の腰痛と認める」というものです。
作業態様や従事期間は、①腰部に過度の負担がかかる業務を比較的短期間(おおむね3か月から数年以内)従事する労働者に発症した腰痛で、②作業態様として、(イ)おおむね20kg程度以上の重量物または軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務、(ロ)腰部にきわめて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度おこなう業務、(ハ)長時間にわたり腰部の伸展をおこなうことのできない同一作業姿勢を持続的におこなう業務、(ニ)腰部に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務としています。
3.労災申請にあたって
(1)災害性腰痛の労災申請では、①腰痛を発症させた作業態様をしっかり証明することです。同僚などといっしょに作業していた場合には、必ず証言してもらうことです。当然、医師の診断書も必須条件です。②特に既往歴や基礎疾患がある場合、その治療歴と作業態様による症状の悪化を示す医師の意見書や診断書が必要です。
(2)非災害腰痛の労災申請では、①作業態様や従事期間、身体的条件が最大のポイントです。②当然、治療が必要だという医師の証明が求められます。

制度一覧に戻る

頚肩腕障害

いわゆる頸肩腕障害は、「上肢作業に基づく疾病の業務上外認定基準」によって判断されます。

1.対象とされる疾病
上肢に過度な負担のかかる業務で、後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手指に発症する運動器障害です。代表的なものは、上腕骨外(内)上顆炎、肘部管症候群、回外(内)筋症候群、手関節炎、腱炎、腱鞘炎、手根管症候群、書頸、書頸様症状、頸肩腕症候群などです。
2.認定要件
認定要件は、①上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事したあとに発症したもので、②発症前に過重な業務に就労し、③過重な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものの3つの要件を満たすこととしています。
(1)「上肢等に負担のかかる作業」とは、①上肢の反復運動の多い作業、②上肢を上げた状態で行う作業、③頸部、肩の動きが少なく姿勢が拘束される作業、④上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業としています。
(2)「相当期間」とは、原則として6か月程度以上です。
(3)「過重な業務」とは、①同種の労働者(同性で年齢が同程度の労働者をいう)よりおおむね10%以上の業務量が増加した状態が発症前3か月程度の場合、②業務量が一定しないが発症直前3か月程度継続して、(a)1日の業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加した状態が1か月のうち10日程度認められること、(b)1日の労働時間の3分の1程度の業務量が通常よりおおむね20%以上増加した状態が1か月のうち10日程度認められるものとしています。
なお、ただちに「過重な業務」と判断できない場合でも、①長時間、連続作業、②他律的かつ過度な作業ペース、③過大な重量負荷、力の発揮、④過度な緊張、④不適切な作業環境の要因を総合的に評価することになっています。
3.労災申請にあたって
(1)作業態様の実態と証明することが、最大のポイントです。同種労働者と比較して「過重な業務」が「相当期間」続いて発症したかどうかが、労災認定の判断基準です。心身の強弱は個々人で違いがあり、受ける「過重な業務」の度合いも当然違います。「同種労働者との比較」を根拠にした労災不支給決定を不服とした行政訴訟が、たくさんあります。
(2)作業態様とあわせて疾病名や治療経過を示したや医師の診断書が必要です。厚労省は類似疾病があるので専門医からの意見聴取や鑑別診断を実施するとしていますから、主治医に十分に吟味した診断書や意見書を書いてもらう必要があります。
(3)なお、厚労省は同「認定基準」で、「適切な療養をすればおおむね3か月程度で症状が軽快するし、手術をしてもおおむね6か月程度の治療で治ゆする」としています。労災認定6か月後に労基署から主治医に対する症状照会があります。その際、適切に対処しないと補償打ち切りの可能性があります。

制度一覧に戻る

脳・心臓疾患(いわゆる過労死)

いわゆる過労死は、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」で判断します。

1.基本的な考え方
「認定基準」の基本的な考え方は、「業務による過重負荷が加わることで血管病変が急激に増悪して、脳・心臓疾患を発症させることがある。業務が相対的に有力な原因と判断される場合は業務上に起因する疾患として取り扱う。発症に近接した期間の労働負荷と長期間の疲労蓄積を考慮する。業務の過重性は、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態を総合的に判断する。
2.対象疾患
同「認定基準」で取り扱う脳・心臓疾患は、以下の通りである。
(1)脳血管疾患――脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症
(2)虚血性心疾患――心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、解離性大動脈瘤。
3.認定要件
(1)発症直前から前日までに、発症状態を時間的・場所的に明確にできる異常な出来事(「異常な出来事」)に遭遇したこと。
(2)発症に近接した時期に、特に過重な業務(「短期間の過重業務」)に就労したこと。
(3)発症前の長期にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(「長期間の過重業務」)に就労したこと。
4.認定要件の運用
(1)疾患名と発症時期の特定
  • ①疾患名の特定――臨床所見や解剖所見、発症前後の身体状況から疾患名を特定し、対象疾患に該当するかどうか判断する。
  • ②発症時期の特定――臨床所見、症状の経過から症状の出現した比を特定し、その日を発症日とする。なお、医学的に関連性が明らかな前駆症状(発症の警告症状)が認められる場合、前駆症状が確認された日を発症日とする。
(2)過重負荷について
①異常な出来事について
・異常な出来事とは――(a)異常出来事とは、極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予想困難な異常な事態、(b)緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予想困難な異常な事態、(c)急激な著しく作業環境の変化、である。
・評価期間は――異常な出来事と発症との関連性は、通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされているので、発症直前から前日までの間を評価期間とする。
・過重負荷の有無の判断は――(a)通常の業務遂行過程において遭遇することがまれな事故又は災害等で、その程度が甚大であったか、(b)気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で物であったか等について検討し、これらの出来事が身体的・精神的負荷が著しいと認められるか否かとういう観点から、客観的かつ総合的に判断すること。

②短期間の過重業務について
・特に過重な業務とは――日常業務に比較して特に過重な身体的・精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり、日常業務に就労する上で受ける負荷の影響は、血管病変等の自然的経過の範囲にとどまるものである。ここでいう日常業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務をいう。
・評価期間は――発症に近接した時期とは、発症前おおむね1週間をいう。
・過重負荷の有無の判断 (a)業務量、業務内容、作業環境等が、同僚労働者又は同種労働者にとっても過重な身体的・精神的負荷と認められるかどうか、客観的・総合的に判断する(同僚等とは、当該労働者と同程度の年齢・経験を有する健康状態にあるものほか、基礎疾患を有していても日常業務を支障なく遂行できるものうをいう) (b)過重業務と発症の時間的な関連性は、イ)まず、発症直前から前日までの業務の過重性を判断する、ロ)なお、発症直前から前日までの業務の過重性が認められない場合であっても、発症前1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられるので、この間の業務の過重性を判断すること(過重な業務が継続しているというのは、期間内に就労しなかった日があってもただちに業務起因性を否定するものではない)

業務の過重性の具体的評価
イ)労働時間――評価期間(発症前の1週間)の労働時間を十分に考慮すること
ロ)不規則な勤務――業務スケジュールの変更の頻度・程度、事前の通知状況、予測の度合い、業務内容の変更程度の観点から検討し、評価すること
ハ)拘束時間の長い勤務――拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手持ち時間との割合等)、業務内容、休憩・仮眠時間数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)等の観点から検討し、評価すること。
ニ)出張の多い業務――出張中の業務内容、出張(特に時差の有る海外出張)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、宿泊の有無、宿泊施設の状況、主張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張による疲労の回復状況等の観点から検討し、評価すること。
ホ)交替制勤務・深夜勤務――勤務シフトの変更の度合い、勤務と次の勤務までの時間、交替制勤務における深夜時間帯の頻度等の観点から検討し、評価すること。
ヘ)作業環境――作業環境は脳・心臓疾患の発症との関連性が必ずしも強くないとされていることから、加重性の評価にあたっては付加的に考慮すること。
  • ・温度環境――著しい高温環境下で業務に就労している状況が認められる場合には、過重性の評価に当たって配慮すること。
  • ・騒音――おおむね90dBを超える騒音の程度、ばく露時間、期間、防音保護具の着用状況を検討し評価する。
  • ・時差――飛行機による時差については、5時間を超える時差の程度、時差に伴う移動の頻度等の観点から検討し、評価すること。
ト)精神的緊張を伴う業務――精神的緊張と脳・心臓疾患の発症との関連性は、医学的に十分解明されていないので、精神的緊張が特に著しいと認められるものについて評価すること。

③長期間の過重業務について
(a)疲労蓄積の考え方――恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたり作用して場合には、「疲労の蓄積」が生じ、血管病変等が自然的経過を超えて著しく増悪させ、脳・心臓疾患を発症させることがある。発症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であるかという観点から判断することとする。
(b)特に過重な業務――(2)の②「特に過重な業務」の場合と同様である。
(c)評価期間――発症前おおむね6か月間をいう。なお、6か月より前の業務は付加的要因として考慮すること。
(d)過重負荷の有無の判断
  • ・業務量、業務内容、作業環境とを考慮し、同僚等にとっても特に過重な身体的・精神的負荷と認められるか否かを客観的・総合的に判断すること。
  • ・業務の過重性の具体的評価は、前記②の?のロ)~ト)までの示した負荷要因について十分に検討すること。その際、過労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、時間が長いほど業務の加重性が増すところであり、発症を基点とした1か月単位の連続して期間を見て、
    イ)発症前1か月間ないし6か月間にわたり1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性は弱いが、おおむね45時間を超え長くなればなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること。
    ロ)発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は。業務と発症の関連性が強いと評価できること(ここでいう時間外労働時間数は1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である)。また、休日のない連続勤務が長く続きほど業務と発症との関連性をより強めるものであり、逆に休日が十分確保されている場合は、疲労が回復ないし回復傾向を示すものである。
5.その他
1 脳卒中について
脳卒中として請求された事案は、前記第4の1の(1)の考え方にもとづき、可能な限り疾患名を確認すること。対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、本認定基準によって判断して差し支えない。
2 急性心不全について
急性心不全の原因になった疾病が、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、本認定基準によって判断して差し支えない。
3 不整脈について
「不整脈による突然死」は、「心停止(心臓性突然死に含む)」に含めて取り扱うこと。

制度一覧に戻る

精神疾患・過労自殺について

異常な働かせ方や職場のストレスが原因した過労自殺やメンタルヘルス不全が、広がっています。旧労働省(現厚生労働省)は、1999年9月に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」と「精神障害に係る自殺の取扱い」を通達し、2011年12月「心理的負荷による労災認定基準」が策定されました。

基発第1226第1号 平成23年12月26日 心理的負荷による労災認定基準について

制度一覧に戻る

inserted by FC2 system